外法帖小説・陽

□風がないている(後編)
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 翌日、一同は龍閃組を組織した円空という人物の元を訪ね、挨拶を済ませた後、王子へと向かった。

飛鳥山を下り終える頃には陽も随分と傾いており、京梧は疲れきった表情で深々と溜め息を吐いた。


「やれやれ、今日中に寺に戻れんのかよ?歩きっぱなしでようやくここまで来て、もうこんな時間だぜ?」
「では、先を急ぎましょう。早く着けば、今日中に戻れます」
「そう来るか……」

変わらずスタスタと歩いて行く涼浬に、京梧の溜め息は益々深くなる。

「あの女には疲れるって感覚はねェのかよ。…ったく、無愛想だわ、冷めてるわ、可愛気はねェわ…。これじゃまるで、緋勇が二人に増えたみてェだぜ」
「……聞こえてるよ、蓬莱寺」
「おっと、悪ィ悪ィ」
「…………」

わざとらしく肩を竦めて見せる京梧を睨みつけ、龍斗は涼浬に声を掛けた。

「涼浬さん、町へ入ったら一度どこかで休憩を取ろう。皆さすがに疲れがあるみたいだし、元々だらしないのも一人いることだし」
「……おいコラ。誰のことだ、誰の」
「ああ、悪い悪い。聞こえてたのか」
「いい度胸してんじゃねェか……」
「おまえに口で負ける気はしない」
「確かに、いい減らず口をお持ちなことで」
「そっちこそ、大した憎まれ口だと思うよ」
「そりゃ、お褒めに預かり光栄だぜ」

睨み合い、フンと鼻を鳴らしてそっぽを向く二人。
雄慶はそんな彼らを呆れ顔で眺めた。

「全く、困った奴らだ…」
「何て言うんだっけ、ああいうの…。“犬猿の仲”?」
「“水と油”、とも言うな」
「うふふ。“喧嘩するほど仲が良い”のよ」


本当にそうなる日はいつ来ることやら。
少しは仲が良くなるよう、いっそ王子稲荷にでも参拝してみるかと、雄慶は頭を悩ませるのだった。

 
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