外法帖小説・陰
□望んだのは、(前編)
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鬼道衆の一行は、両国橋を訪れていた。
人々が花火に心躍らせ大いに賑わうこの場所では、どこか異色の取り合わせの五人組も、そう目立つものではないらしい。もちろんこれから起こる出来事に気付く者などいるはずもなく、人々の間には楽しそうな声が満ち、皆が夜の訪れを待ちわびていた。
天戒は前を歩く龍斗の姿に目を遣った。
京から帰って来て、龍斗の表情は以前より明るくなったように思う。
時折見せていた蔭りのようなものが無くなったことが、変わらぬ笑顔をさらに明るくさせているのかもしれないが、それはどちらにしても喜ばしいことである。
そして何よりの変化は、格段に強くなった戦闘力だ。技に関しては以前から目を見張るものがあったが、精神や内面の『心』の強さが、今の龍斗に完璧なまでの強さと力を与えているようだった。
“天戒を支えられるようになるから”
京で龍斗が言ったことを、天戒は思い出していた。
その気持ちが、彼を変えたのだろうか。
凍てついた雹の心さえ溶かしていく温かさを持ちながら、凛とした強さは増し、輝きを放ち続ける。
そんな龍斗だからこそ、自分にとってだけではなく、鬼道衆にとって、村人たちにとって、きっと大きな存在になっているのだろう。
天戒は眩しそうに、その後ろ姿を眺めた。