外法帖小説・陽

□風がないている(後編)
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 夕七ツ刻。

 ようやく目的の如月骨董品店に辿り着いた一同だったが、生憎店は閉まっていて、中に人がいる気配はない。

近くの茶屋で時間を潰し、しばらくしてからまた様子を見に来ようと言う京梧たちに対し、涼浬はこの場で店主が帰って来るのを待つと言い、龍斗も彼女と共に店の前に残ることを選んだ。


「あなたも物好きな方ですね。私と一緒に此処に残るなど…」

呆れたように言う涼浬に、龍斗は小さく微笑む。

「俺はそんなに疲れてないから。それに、一人で待つより二人の方が時間も潰しやすいだろ?」
「……」
「いや…、重要な任務の最中だってことは、ちゃんと意識してるよ。ただ、他にも誰かいた方が良いだろうと思って」
「……わかっています。あなたはいつでも、真剣に考えていらっしゃると……」

そう言うと、涼浬は一度視線を外して口を結び、そして真っ直ぐな瞳で龍斗を見上げた。

「昨夜は…申し訳ありませんでした」
「……?」
「あなたは親身になって向き合って下さったのに、声を荒らげるような真似をして―――…。反省しています」
「そんなの、別に気にしてないよ。俺の方こそ、わかったようなこと言って…悪かった」
 
ゆるく首を振り、涼浬の顔にはわずかながら初めて笑顔が浮かぶ。
それを見た龍斗の表情も、自然と和らいでいた。




「ひっく…。兄ちゃん…どこ…?兄ちゃあん……」


 ふと聞こえてきた泣き声に振り向くと、道端で幼い少女が一人、心細そうに立ち尽くしている所だった。

龍斗と涼浬は顔を見合わせ、少女の元へと近寄る。


「……お兄さんと、はぐれてしまったの?」

涼浬が声を掛けると、少女は泣きじゃくりながら二人を見上げた。

「兄ちゃん、途中でいなくなっちゃったの…。一緒にお稲荷さんに行こうって言ったのに……」
「王子稲荷か…。此処からそう遠くないし、先に行って待ってるんじゃないかな」
「緋勇殿…、この子を王子稲荷まで送ってあげることはできないでしょうか?」
「俺もそう言おうと思ってた所だよ。じゃ、行こう」
「ありがとうございます…。――さあ、泣かないで?私たちが一緒に御稲荷様まで行ってあげるわ」


涼浬は少女の涙を拭いてやり、龍斗と片方ずつの手を繋ぎ、王子稲荷へと向かって歩き出した。

 
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