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□本の世界のドール祭
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10月7日24:00。
ついにドール祭が行われる時間になった。
電気の消えた街に、一段と明るい広場の明かり。
その光に引き込まれるかのように、大人たちが集まってくる。
どいつもこいつも高そうな装飾品を身につけ、これは何処どこで買ったどこのブランド品だのと自慢話をしている。
オレは一人、人には見えないところに隠れていた。
吐き気がする。
オレは鼻を摘み、口で息しながら思った。
一つ一つは良い匂いの香水なのだろうけど、いろんな臭いが混ざり合い、異臭になっている。
鼻で息しない分臭いは少しマシになったが、蒸せて咳がでる。
マジ、最悪だな・・・。
早く始まれと心で願っていると、今までスポットライトが当たっていなかったステージに光があたる。
ステージ端から仮面をつけた男が現れる。
『長らくお待たせしました。これからドール祭を開始いたしまぁーす。皆様方、よぉーくご覧になって、決めてくださいねv』
仮面をつけた男は歌うかのように、良い言葉を並べて、どんどん子供たちを紹介していった。
そしてどんどん高値で売れていく。
『さぁ、これが最後になりまぁーす』
まだあの青い髪の子は出てきていない。
オレは息を呑んで最後の子を見た。
しかし俺の期待を裏切るかのように、最後の子は青い髪の子ではなく、黒い短髪の男の子だった。
その子も高値で売られていった。
『皆様方、これでドール祭はお開きでございます。どうもありがとうございました。また来年、お楽しみにv』
あの青い髪の子はどこへ居たのだ?
もしかして、逃げたのか?
鼻を摘んだまま青い髪の子が居ない理由を考えた。
しかしオレが思いつくものは、どれもこれも納得のいくものではなかった。
俺が黙って考えていると、数名の会話が耳に入ってきた。
「あなた、骨と皮しかなさそうな男の子買ってたけど、どうするの?」
口元を扇子で隠しながら女は、隣に居た羽のついた帽子をかぶった男に聞いた。
「あいつは俺がむしゃくしゃした時に使うんだよ。痩せてたって、太らせればいいだろ。それより、俺は青い髪の女の子買いたかったぜ・・・」
男はため息をついて残念そうに肩を落とした。
「私も買いたかったわ」
真っ赤なバラの形をした鞄を持っている女が言った。
「どこに行ったのかしら?」
扇子で口を隠している女が言った。
「あぁ、それなら俺してるぜ」
違うところから話を聞いていた男が3人の輪に入ってきた。
3人は現れた男の方に顔を向ける。
オレは男の話を聞き逃すまいと耳をそば立てた。
「青い髪の女の子は、ヴィーバ家の当主が買ってたらしいぜ」
「ヴィーバ家当主が直接買うなんて珍しいわね。で、いくらで買ったの?ヴィーバ家ならそうと積んだんじゃない?」
扇子で口を隠している女が興味心身で聞いた。
「100000ループって話だぞ」
顔を前のめりにさせて子声で言った。
金額を聞いた3人はただただ驚いていた。
ヴィーバ家・・・。
オレは金の値段より、女の子を買った名前の方が気になった。
ヴィーバ家はこの街で・・・・、いや、世界一番の金持ち。
そして、世界で一番残酷の家系。
自分の意見が通らなければ、子供であろうと、老人であろうとすぐに殺す。
つい1週間前には、自分の会社の従業員が、契約に失敗したというだけで、公開処刑にしていた。
そんな時、警官は見て見ぬふりをしていた。
普通だったらすぐに捕まるだろう。
しかしヴィーバ家の金で動いている警察署では捕まえることは絶対出来ない。
ドール祭が堂々と商売できるのも、ヴィーバ家が係わっているからだ。
(あの子に会ってから2日経つ。すぐに買われたとしたら、もう・・・・)
一番最悪の考えが頭の中に浮かんでくる。
(何考えてるんだ、オレは!あの子を助けるって覚悟してきたのに、ビビッてんじゃねぇよ!!!)
震えている足を拳で叩く。
ふっとミックの顔が現れる。
『ミックに助けてもらえば良いじゃねぇか。いつもみたくよぉ』
何処からともなく、もう一人のオレが出てきて言う。
(・・・そんなこと出来るかよ。相手はヴィーバ家だぞ。失敗すればオレだけじゃね、ミックも殺されちまう)
もう一人のオレはケラケラと笑った。
『何言ってんだ?てめぇは一人じゃ何もできねぇだろう。いつも助けられてるじゃねぇか。偽善者ぶるなよ、な、ミックに頼もうぜ。あいつなら喜んでついてくる』
もう一人のオレは口が避けてしまうんじゃないかと思うほど笑みを浮かべたまま言った。
頭の中にいるはずなのに、今はまるで目の前にもう一人のオレがいるような圧迫感がある。
「・・・・」
オレの覚悟がもう一人のオレの言葉で揺らいでいく。

・・・オマエノ カクゴハ コンナモンダッタンダヨ

あの子を助ける。
・・・アノコッテ ダレダ?

ミックに頼らず。
・・・ツカエルモンハ ツカウニカギルゼ

一人で・・・・。
・・・ムリ、ムリ オマエハ ヒトリジャナンモデキネェ ヨワイヤツ
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