DM

□海に溺れてサリージュよ
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夕暮れ時だった。
辺りは日が沈みかけていて、ほどよく橙色が世界を支配していた温かい時間。

今朝、神楽ちゃんが海に行きたいと言い出して、特にやりたいこともやることも無かったからみんなで海に来ていた。

もうそろそろ帰ろうか? 新八君がそう言って、なんとなく侘しさが胸いっぱいに広がってしまう。
それは子供のときに感じた夕暮れの帰り道にも似ている心中だ。
もっとも私の場合は少々特殊だったから、夕暮れの帰り道を歩いたことは無いのだが。

そんなわけで、荷物をまとめ始めたみんなをよそにこっそり砂浜から目立たない岩場に来た。
不安定な場所に腰かけて大きな夕陽を眺める、この言葉には表せない一人の空間を変に感じたかったのだ。
遠くにみんなの声が聞こえる。
目を向けるとやはり、さっきの場所にいた。
安心して私は岩場から足を投げだして足だけを海水に浸ける。

ちゃぷん、と音を立てて海水の中に白く艶かしい二本のそれはふくらはぎまで浸かった。
そしてみるみるうちに形が変わる。

ヒレだった。
美しい鱗を纏ったヒレは、ちょうど夕陽に照らされてキラキラと光る宝石のようにも見える。
天人だ。
人魚を種とした人魚の天人。銀さん達には言っていない。きっと気味悪がられるだろうから。
ヒレは海水を拭えばまた人間の足に戻ることができる。どうせ時間もかかるだろうし、私はここで少しゆっくりしていても大丈夫だろう。

そして見られないうちに拭えばいい。
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